piano

第17回
驚愕の『ぞうさん』

楽器店講師となってしばらくたった頃、とあるピアノ教本の著者による講座が開かれることになりました。内容は、幼児向けの教本の使い方で、前もって選ばれた地元の先生の一人の生徒の公開レッスンという形で行われました。

生徒はピアノを始めて間もない4歳の女の子。持ってきた曲は誰もが知っている「ぞうさん」。ちなみにヘ長調バージョンでした。

ピアノ教本に関する説明が一通り終わったところで公開レッスンが始まりました。まずはその女の子に弾いてもらいます。

うんうん、かわいい♪(*^_^*) ピアノを始めたばかりにしては上手! テンポも落ち着いているし、目立ったミスもない。4歳児ならではのたどたどしさに思わず笑みがこぼれます。これだけ弾ければなかなかのもんです。

さて、弾き終わったところでその先生は誉めたあと、ゆっくり、じっくりとぞうさんのお話を始めました。


とっても大きなお母さんぞうは、いつも赤ちゃんぞうさんのそばにいて
その大きな体と長〜いお鼻で優しく優しく見守っているの。
赤ちゃんぞうさんは、そんなお母さんが大好きなのよ…。


そんな感じで、ぞうさんの親子の温かな絆について、一言一言かみしめるように、5分、いや10分?もの時間をかけてゆっくりとお話しされました。生徒の女の子は、じっと耳を傾けている様子。

…そして。話終えたところで、「じゃあもう1回弾いてみようか」と促しました。

すると。

なんということでしょう!! さっき弾いた「ぞうさん」とはまるで別の曲のような、なんとも優しい音色で弾いているではありませんか。いや、音色だけではありません。さっきはただ音符どおりに正しく弾いただけだったのが、情感たっぷりと歌っているんです。まるで草原でお母さんぞうと赤ちゃんぞうが戯れている温かな情景が目に浮ぶようでした。会場からは思わず「ふぉぉ〜…」という驚きの声が上がりました。
まさに「劇的ビフォーアフター」(笑)。

その先生は、「ここはこういう風に弾きなさい」とか「強弱を付けて」とか、具体的な歌い方には一切触れませんでした。ただただぞうさん親子のお話を聞かせただけ。そのイメージが、思わず体の奥底から自然に沸き出るほどの印象を与えたのでしょう。

そうなのです。音楽って、音符の長さとかテンポの正しさとか強弱とか、それだけではないですよね。それが全てなら電子楽器に演奏させるのと変わらないのですから。でも、子供のレッスンではついつい基本的なことを教えることばかりに気を取られてしまっているかも。「ここでクレッシェンド」「手の形に気をつけて」といった教え方をするよりも、曲のイメージを膨らませてあげることの方が大事なのだということに気付かせていただきました。

結局その先生の教本自体は、一人の生徒に使ってみたのですが、いまいち使いづらくてそれで終わってしまいました(汗)。が、この講座で学んだことは本当に大きかったです。

次回は「みの、吹雪で遭難!?」 です。

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Last modified: Sun Jan 22 22:26:35 2006