第10回
みの、T橋先生に泣かされる

あの『とにかくコワイ』『だれもが泣いて帰る』レッスンで有名だったN村先生の前で一度も泣いたことのないわたしが、お美しく、どこまでも上品なT橋先生に泣かされたのはいつの頃だったか。
記憶は定かではないが、兄と一緒に通っていた頃だ。

確かにT橋先生は上品な方でいあらっしゃったが、レッスンそのものはそれなりに厳しく、爪が伸びていたり宿題をやってこなかったりすると、手の甲を10回つねられるのだ。しかも手加減ナシ!!Σ( ̄ロ ̄;ノ)ノ イタタタタ…

その日、兄が先にレッスンを受けている間じっと待っており、終わってわたしの番になった。
曲はなんだったろうか。バッハか、それともソナチネか。うん、ソナチネだったような気がする。
その曲の中のわずか2小節ほどのフレーズが、指がからまってどうしてもうまく弾けない。

先生「そこ、もう一度」

みの「ハイ」タラリ、ラリ〜…♪

先生「もう一度」

みの「ハイ」タ、タラリラ、リ〜…♪

先生「もう一度」

みの タラリ、リラリ〜…♪

先生「もう1回」

みの タラリラリ〜…♪

─── (中略) ───

みの タラリラリ〜…♪

先生「もう一度」

みの「…グズッ(;;)」タラリラリ〜…♪

先生「もう一度」

みの タラリラリ〜…♪

…このやりとりが30回は続いたような気がする。16回目あたりでわたしは半べそ状態に、最後の方ではもうグズグズ状態であった。
レッスン室の隅で待っている兄も固まっているようだ。

最後にT橋先生は静かにこうおっしゃった。

こういう練習を家でしてくるのよ

みの「ハイ…(T_T)」

レッスンの帰り道。
兄「T橋先生、今日ちょっとコワかったね…」
みの「…ウン…(T_T)」
バス停へ向かう兄と妹の背中を、夕陽が優しく照らしていた…(情景に多少脚色あり)。

この時が、わたしがレッスンで泣いた最初で最後の時である。
でもこのレッスンで、弾けない所をどう練習するかが身に染み込んだ。
おかげで今、講師となったわたしがレッスンで生徒に「もう一度」攻撃を仕掛けている。川 ̄ι ̄川フフフ

次回は『ピアノやめたい病、発病』です。

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Last modified: Thu Aug 8 01:14:13 JST 2002